英国フォニックス3社の違いをより深く知りたいです。
気になる3つの項目にフォーカスして、英国教育省認定フォニックス教材を横断的に比較してみましょう。
英国教育省認定フォニックス3社
英国教育省認定フォニックス連載シリーズでは、Synthetic Phonicsの基礎知識、Jolly Phonics、Twinkl Phonicsとオックスフォード社(Oxford University Press)のFloppy’s Phonicsの概要をご説明しました。
比較した3つのフォニックスの教授方法は、英国教育省が認定している46のシステマティック・シンセティック・フォニックス(Systematic Synthetic Phonics)のうち、日本で比較的アクセスしやすい3社です。
いずれも、英国教育省認定のFull SSP (Full Systematic Synthetic Phonics)として知られています。
3社ともシステマティック・シンセティック・フォニックスですので、フォニックスの基礎から難しい内容を少しずつ習得させて、毎回復習で理解度をチェック、同時に読みや綴りにつながるように習った音素を主として利用して作られたデコーダブル系の本を学校・家庭で協力して読み進めるというフォニックスの学習プロセスにはそれほどの違いは見られませんでした。
具体的な3社のプロセスは、だいたいこのようなイメージです。
- 音への気づき (フォノロジカル・アウェアネス)
- フォノロジカル・アウェアネスと平行して、日常生活での単語インプット、絵本読みなどで語彙を増やす(学習者用の絵本ではなく、出来ればネイティブのお子さま用の普通の絵本がこの段階ではお勧め)
- フォニックスの最初のステップ:基礎音素42音ないし44音の導入。ポイントはさらっと学ばず「3歩進んで2歩下がる的に復習マスト」で。基礎の音素が理解できつつある段階でBlendingやSegmentingにもトライ
- 基礎の音素が理解・定着できたら、次のステップからトリッキー・ワーズ(Tricky Words、米国ではサイト・ワーズSight Words)をレッスンに導入(毎日ではなく、1週間に10個程度などまとめて)
- 次のステップ:基礎の音素の次のステップは「末尾の/ee/の音yなど」「二重字(digraph、例えばshopのsh)」「三重字(Trigraph、例えばmightのigh)」「サイレントe (マジックe)の長母音」など、より高度な内容を理解・定着。
- フォニックスは単にステキな音で英語が読めることをゴールとしているわけではなく、Blendingは「読み」、Segmentingは「綴り(スペリングとWriting)」へつながるプロセスと理解。
- フォニックスで理解すべき音素がひと通り入ったら、これまでの音素をグループにし直す「同音異綴り(Alternatives)」を段階的に導入。同音異綴りが理解できないと、綴り(スペリング)につながらない。
- ポイント:フォニックスの基礎音素を学習したら、デコーダブル本(習った音素だけで読める本)を学校でも家庭でも読み進める。ステップが進むにつれて、デコーダブル本もステップアップ!
今回比較するフォニックスの3つの項目
3社ともだいたいが学習プロセスは同じとはいえ多少の違いはあるので、今回はどんぐりばぁばが気になった3つの項目に注目して、もう少し深掘りして3つの教授法を比較していきます。
- シンセティック・フォニックスの英国での対象年齢とレベル
- フォニックス教材が扱う語彙
- トリッキー・ワーズ(Tricky Words)いわゆるサイト・ワーズ(Sight Words)の違い
【再掲】Synthetic Phonics3社の年齢比較表プレゼント(A4/1枚)
以前もご紹介した表ですが、これから3社比較をするにあたって見比べると便利なので再度載せます。よろしければダウンロードしてくださいね。
*【Synthetic Phonics 3社の年齢比較表】ご利用にあたってのお願い*【Synthetic Phonics 3社の年齢比較表】は著作権を放棄していません。第三者への転売・譲渡・Social media(SNS)・ネットまとめ記事などでの転載はご遠慮ください。
シンセティック・フォニックスの英国での対象年齢とレベル
英国教育省認定の3つのフォニックス教授方法は、何歳くらいのイギリスの子ども達に適応されているか、導入年齢に少し違いがあるので比べてみましょう。
先ほどご紹介した年齢比較表の濃い茶色になっている、全国の小学校1年生が夏学期最後に受ける英国教育省のY1 Phonics Screenig Check に向けて各社ともプログラムを効率的に組んではいます。しかし、対象年齢と教授内容は微妙に異なっています。
具体的には、Jolly Phonicsは、小1にあがる前のレセプションの1年間でしっかり基礎的なフォニックス学習の3つのステップを学習させます。当然、Tricky Words (トリッキー・ワーズ。いわゆるサイトワーズのこと)という、フォニックスのルールだけでは読めない語も、段階的に紹介しています。
小1以降は、Jolly Grammarというフォニックスにプラスアルファ読みと綴りを定着させて、少しずつ文法事項を習得させる課程です。Jolly Grammarでも、それまでのJolly Phonicsで学んだ音素の復習もしつこいほど繰り返されます。更に、例えば「今回はこの形容詞に注目しましょう」などと毎回のレッスンでフォーカスされた10語程度を覚えて小テストがあり、なかなかハードな内容です。
一方、Twinkl Phonicsは、ナーサリーやプレスクールで音への気づきを促すフォノロジカル・アウェアネスを意識させることから始まり、小1までTricky Words (サイトワーズ)の学習ふくめてしっかりフォニックスの定着、小2ではGrammarの要素も入れ込んでフォニックスの習得を終わらせています。
Oxford University Press社のFloppy’s Phonicsは、レセプションから小1でフォニックスの学習が終えられるようなプログラムです。
まとめると、英国教育省認定教材のFull SSP (システマティック・シンセティック・フォニックス)だけに着目すれば、Twinkl Phonicsが一番期間が長く4年間、次にFloppy’s Phonicsが2年間、最後にJolly Phonicsが1年間基礎のフォニックスを学ぶ設定です。
各社の教育プログラムの内容と時期がこのようにずれているのは、英国教育省認定フォニックス連載の「基礎知識編」でご説明したように、英国教育省の定めるナショナル・カリキュラムの実施に際して、「何をポイントとして児童に教えるのか」「どの順番で何をどう導入するのか」は実は各社に裁量が任されていることによります。くわえて、どの会社のシステムを導入するかもそれぞれの教育機関が学校の状況にあったフォニックスを自由に選択するために差が出ることになります。
繰り返しになりますが、英国教育省認定フォニックスの「基礎知識編」でもとりあげたように、各社と各教育施設の自由裁量が大きい分、小1では全国規模のPhonics Screening Checkが行われて、理解度の確認がなされます。
フォニックス理解が不十分とされた児童に対しては、各社ともに自社のフォニックスの課程が終了した後でもフォローアップをすることになっています。
たとえば、Floppy’s PhonicsやJolly Phonicsでは、Phonics Screening Checkの結果が芳しくなく、ケアが必要な子どもへのフォローを徹底させると明言しています。
もっとも分かりやすいフォローアッププログラムを明示的に提供しているのがTwinkl Phonicsで、小2を終えた段階で英国教育省が定めたレベルまで到達していない場合は、KS1 Intervention (KS1はKey Stage1のことで、小1および小2のこと)やKS2 Codebreakers Intervention (KS2はKey Stage2のことで、小3から小6を指す)と呼ばれるフォニックスのサポートが必要な児童向けのプログラムの用意があります。
3つのフォニックス教材が扱う単語
英国教育省認定フォニックス教材に限らず、基本的にはフォニックスは生まれた時から英語の環境に置かれた子どもが、すでにたくさんインプットされている英語のフレーズや語彙を、フォニックスのルールを導入することで整理して「読みと綴り」につなげる手法です。
『Jolly, Twinkl & Floppy’s :3つのフォニックス比較』【基礎知識編】でもとりあげているように、くり返しになりますが、この3社のフォニックスは英国教育省認定フォニックス教材であっても何に焦点をあててどう教えるかについては教育省が決めているわけではなく、3社が独自に定めています。
フォニックス学習対象の年齢が、Jolly Phonicsが4歳から5歳、Twinkl Phonicsが3歳から7歳、そしてOxford University PressのFloppy’s Phonicsが4歳から6歳とずれているので、使われている語彙はだいたいかぶっているのですが、対象の年齢差もあって、若干異なる語彙も使われています。
今回は「日本人はあまり使わないかしら?」という単語や「この年齢でこんな単語を!」と個人的に気になった語彙を以下にまとめてみました。
Oxford University Press社のFloppy’s Phonicsの単語は、その教科書Sounds and Lettersがあまりにもそっけない造りで、担当教員の裁量にまかされている部分が多いため、今回の単語の比較からははずしました。
Jolly Phonicsで学習する少し難しめの単語
Jolly Phonics ではStep 1からStep3までを4歳から5歳の1年間で学習します。Step 1では基本の42の音素を学習するのですが、Group 1(s, a, t, i, p, n)、Group 2 (c/k, e, h, r, m, d)、Group 3 (g, o, u, l, f, b)、Group 4 (ai, j, oa, ie, ee, or)、Group 5 (z, w, ng, v, oo2種類)、Group 6 (y, x, ch, sh, th2種類)、Group 7 (qu, ou, oi, ue, er, ar)の7つのグループに分けて学習を進めています。
イギリスの4歳児が習う単語のうち、ちょっと難しいのではと思う語彙に訳をつけてみました。アンケートをとったところ訳語だけでなく品詞をご希望の方が多かったので、名詞(n.)/他動詞(vt.)/自動詞(vi.)/形容詞(a.)/副詞(adv.)をつけておきます。(この表は以前ちむ子先生とのスペースで使ったのと同じ内容です)
リストの左から2番目のG1やG4などは、先にのべたJolly Phonicsが扱う基本の42の音素のグループのどこに該当単語が区分されているかを示しています。Group 1であればG1としています。(Jolly Phonicsからご許可いただいています)
ちなみにGroup 1のnewt (イモリ)は、文部科学省 の小学校の外国語教育補助教材 “Hi, friends! Plus“にも載っている単語ですが、発音がちょっと難しいですね。
Twinkl Phonicsで学習する単語 【5月末まで期間限定無料ダウンロード】★★★
Twinkl社に「Twinklフォニックスの語彙集」のご用意があります。
この語彙集は、Twinkl フォニックスのレベル2からレベル6で扱われている、フォーカスワードと呼ばれる各レベルにおける重要単語と、トリッキーワードで構成されています。
Twinkl様の語彙リストは、このたび改訂されて内容もさらに充実したファイルが5月31日まで無料配布中です。
是非こちらのリストの単語を事前にお子さまとのやり取りに使って「仕込んで」おくと良いでしょう。フォニックスの理解もスムーズになりそうです。
Jolly PhonicsとTwinkl Phonicsの文字音(レターサウンズ)比較
先に述べたように、Jolly PhonicsとTwinkl Phonicsで導入される最初の文字音(レターサウンズ)は、いずれも英国教育省認定フォニックスですので、それほど大きな違いはありません。
左の比較表の色は、白はほぼ同じ時期に導入されていますが、他の色は少しずれてはいます。特に、thの有声音/ð/と無声音/θ/の導入、またooの/u/と/uː/の導入の順序はJolly とTwinklでは異なっています。
この初期の段階で「Twinklでは扱っていてもJollyではまだ学習していない」、また逆に「Jollyではすでに習っていてもTwinklではまだ出てこない」レターサウンズを赤い色で示しています。Twinklの赤い箇所はJolly ではStep 2やStep3の同音綴り(Alternatives)で少しずつ導入されます。逆に、Jolly Phonicsの赤い箇所はTwinkl Phonicsでは、Level 5で学習されます。
他の色(ピンクや黄色など)はTwinklとJollyのレターサウンズを探しやすくするために変えているので気にしないでください。
Tricky Words/Sight Words
さて、「フォニックスを学べばネイティブ・イングリッシュ・スピーカーのように英単語が読める」というイメージがありますが、英語にはフォニックスのルールから外れて不規則な読み方をする単語があり、フォニックスですべてをカバーして流暢に発音することは出来ないとされています。
このようなフォニックスのルールから逸脱した語には、実はいろいろなパターンがあります。
そのうちの一部のパターンと、単独ではほとんど意味をなさない機能語などをエドワード・ドルチ先生が児童書から220語抜き出して「ドルチ・サイト・ワード・リスト (Dolce Sight Words List)」を1948年に作成したことはよく知られています。このような語をサイト・ワード(Sight Words)としてご存じの方も多いかもしれないです。
ドルチ・サイト・ワード・リストは、5段階レベル(Pre-primer/Primer/First/Second/Third)の220語から構成されています。ちなみに、サイト(sight)とは、「見ることで」覚える語の意味ですね。
ドルチのリストには名詞が含まれていないのが特徴でもあります。ネットでDolce Sight Words Listを検索すれば無料で入手可能です。(ドルチ・サイト・ワーズ・リストは315語とする場合もあります)
- a/about/after/again/all/always/am/an/and/any/are/around/as/ask/at/ate/away
- be/because/been/before/best/better/big/black/blue/both/bring/brown/but/buy/by
- call/came/can/carry/clean/cold/come/could/cut/
- did/do/does/done/don’t/down/draw/drink
- eat/eight/every
- fall/far/fast/find/first/five/fly/for/found/four/from/full/funny
- gave/get/give/go/goes/going/good/got/green/grow
- had/has/have/he/help/her/here/him/his/hold/hot/how/hurt
- I/if/in/into/is/it/its
- jump/just
- keep/kind/know
- laugh/let/light/like/little/live/long/look
- made/make/many/may/me/much/must/my/myself/
- never/new/no/not/now
- of/off/old/on/once/one/only/open/or/our/out/over/own
- pick/play/please/pretty/pull/put
- ran/read/red/ride/right/round/run/
- said/saw/say/see/seven/shall/she/show/sing/sit/six/sleep/small/so/some/soon/start/stop
- take/tell/ten/thank/that/the/their/them/then/there/these/they/think/this/those/to/today/together/too/try/three/two
- under/up/upon/us/use
- very
- walk/want/warm/was/wash/we/well/went/were/what/when/where/which/white/who/why/will/wish/with/work/would/write
- yellow/yes/you/your
サイト・ワーズのリストにはドルチ以外にもよく知られたフライ・サイト・ワーズ・リスト(Fry Sight Words List)があります。
フライのリストは1950年代に作られ、1980年にアップデートされていることで知られています。名詞も含んでおよそ1,000語あり、Grade 3から9のリーディング教材から取られています。1,000語はここでは紹介しませんが、100語ずつのグループに分けられていて、ネットでFry Sight Words Listと検索すればこちらも無料のリストにヒットします。
一方、今回とりあげている英国の教育省認可のシステマティック・シンセティック・フォニックスでは、フォニックスのルールに当てはまらないこのような語彙をトリッキー・ワード(Tricky Words)と呼んで、フォニックスの課程に少しずつ組み込んで認識・学習させています。
各社のトリッキー・ワーズの数と内容は微妙に違っているので、下のグラフをご覧いただければと思います。いずれにせよ、小学校低学年が習得するフォニックスですので、ドルチやフライより数は少なくなっています。
ちなみに、英国教育省認定フォニックスでは、基礎の音素42ないし44の習得後に、ダイグラフ(digraph/例えばshopのshなどの二重字のこと)やトライグラフ(trigraph/例えばmightのighを/ai/と読む3字1音のこと)や同音異綴り(Alternative)を学習するのと並行して、ところどころでこのTricky Wordsを導入して定着させていく方式です。つまり、Tricky Wordsだけを集めて暗記していくというような方法ではありません。
Jolly Phonicsは公式サイトから無料で2種類のTricky Wordsのリストがダウンロード可能です。
Twinkl Phonicsでも、Tricky Wordsと検索窓に入れれば簡単にアクセスできますが、先にご紹介したように、5月末までの期間限定で無料ダウンロードできる語彙リストに含まれています。
Oxford University Press社のFloppy’s Phonicsは教員用教材にリストが載っています。
おわりに
英国教育省認定フォニックスをイギリスの小学校は導入しているわけですが、各社微妙に違いがあることがお分かりいただけたと思います。
英国教育省認定フォニックスでは、小1の夏学期最後に実施される全国一斉のPhonics Screening Checkが欠かせません。しかし、もしこのようなチェックが日本で行われたら、教育施設も保護者もかなり混乱するのではと、想像に難くありません。
実際イギリスでは「ちゃんと読めないことが早く分かって、サポートしてもらって、よかった」とこのPhonics Screening Checkが非常にポジティブにとらえられているようでした。
例えば、よくお願いしていた送迎サービスの運転手さんはパキスタンからの移民で、お子さんがこのチェックで理解が不十分であることがわかって「手厚いケアをしてもらっている、エキスパートが毎週個別に見てくれてとても良いシステム」と話していたのが印象的でした。
人気のフォニックスですが、イギリスの場合は英国教育省認定教材であっても3社の違いがあることが今回のポイントでした。皆さんはどの会社の教材にご興味おありですか?
(念のため、3社様からPR報酬などは一切頂戴していません)