子どもに読み聞かせする際、「積極的に子どもに声掛けして質問しよう」というダイアロジック・リーディングが海外では人気です。
でも、子どもに読み聞かせしながら何を聞けばいいでしょう。
どんな声掛けや質問がいいのか、提唱者のホワイトハースト博士のお勧めをみてみましょう。全部は無理でも一つでも取り入れられるといいかもしれないですね。
ダイアロジック・リーディングの概要
以前の記事でも子どもに声掛けや質問しながらの読書が海外で人気とご紹介しました。デジタル端末の本であっても「子どもと共に読む」時に積極的に質問することが研究者から推奨されています。
この「会話(ダイアログ)しながら子どもといっしょに本を読むダイアロジック・リーディング」は、今はさまざまな研究者が推していますが、もともとはホワイトハースト博士(Whitehurst)のグループが提唱された方法です。
Whitehurst, G. J., Falco, F. L., Lonigan, C. J., Fischel, J. E., DeBaryshe, B. D., Valdez-Menchaca, M. C., & Caulfield, M. (1988). Accelerating language development through picture book reading. Developmental Psychology, 24(4), 552–559. https://doi.org/10.1037/0012-1649.24.4.552
Whitehurst, G. J., & Lonigan, C. J. (1998). Child development and emergent literacy. Child Development, 69(3), 848–872. https://doi.org/10.1111/j.1467-8624.1998.00848.x
ダイアロジック・リーディングで子どもの言語能力がアップ
ダイアロジック・リーディングでは、子どもに読み聞かせする時に単にYesやNoで答えられる質問や指差しでだけで終わってしまうやりとりをするのではなく、子どもの発話を促す質問をします。
1988年、Whitehurst博士のグループは、提唱する4つのステップを順にこなしつつ、5つのポイントを網羅した質問や声掛けをすると、子どもの「表現力がアップ」「発話が長く」「単語やフレーズが増える」など言語能力に良い影響が出てその後9か月は効果が継続と報告しています。具体的な4つのステップはのちほどご説明しますね。
2番目の1989年のホワイトハースト(Whitehurst)博士らの論文では、「ダイアロジック・リーディングでは『大人が話して子どもが聞く』スタイルから『大人は質問したり情報を付け加えたりしながら子どもが語り手になるように促す』ことが大切。つまり、役割分担が変わる」(Whitehurst and Lonigan, 1998, p.859)と主張しています。
ダイアロジック・リーディングの3つのYouTube
ダイアロジック・リーディングはなんでもいいから質問すればいいというわけではないので、実際どうやってするのかイメージをつかみづらいですね。ネイティブ・スピーカーの大人と子どものやりとりの場面を見たい時は、一般向けに公開されているYouTubeビデオが便利です。3つあるので見てみましょう。
ダイアロジック・リーディングの提唱者Whitehurst博士自身が寄稿された分かりやすい方法を掲載したウエブサイトで、学齢期前の児童を対象に保育園や幼稚園で実践されている様子がYouTubeで配信されています(2020年8月Institute of Education Sciences)。こちらの動画では栄養に関して説明している本を先生が読みきかせしていますが、わずか4人の子どもであってもすべての子に公平に質問することは難しく、飽きていたり一人の子ばかりがしゃべったりとなかなかダイアロジック・リーディングを教室でうまく実践するのはなかなか厳しい印象でした。
同じInstitute of Education Scienceが物語を題材にダイアロジック・リーディングをしているYouTubeも配信しています。こちらも聞いている子は4名ですが、上の動画より少し年齢が小さいためか、撮影隊を意識して振り返る子がいたり集中ない子もいたり、なかなか一筋縄ではいきません。小さい子には先生が何度も語彙を繰り返させているのが印象的でした。
一般の親御さん向けの映像は、2021年にアップロードされたフロリダ・インターナショナル・ユニバーシティのYouTubeビデオが丁寧な作りです。ビデオ内のお子さまがお利巧さんすぎの印象はありますが、お母さまと一対一で絵本の1ページをめくるごとに質問や声掛けを細かくしながら読み進んでいくやり方はホワイトハースト博士 (Whitehurst)の4つのステップが踏襲されています。
ただ、横でビデオを見ていたじぃじが、「こんなにどのページもどのページも、子どもと大人が会話しなくちゃダメなら、もう気軽に読み聞かせできないよ」とゲンナリした様子だったのは、正直な感想かもしれませんね。
ダイアロジック・リーディングの手順と方法
ダイアロジック・リーディングが良いことはわかっても、実際にどのような手順で取り組めばいいのか、またどういう質問をすればいいのかはあまり知られていません。
以前の記事で質問が巻末に載っているOxford Reading Treeを使ってはと提案しましたが、ホワイトハースト博士のグループがダイアロジック・リーディングの具体的な方法(4つのステップと5つの質問)を説明しています。ORT以外の本を読む時に使えそうですね。
ダイアロジック・リーディングの4つのステップ
Step | 日本訳 | 英語版 | 例 |
1 | 子どもが発言するように背中を押す | Prompt your child | 3歳児向け”What is the duck doing?”「アヒルさんは何している?」4~5歳児向け”Have you ever seen the duck swimming? What did it look like?”「アヒルさんが泳ぐの見たことある?どんな風だった?」(Whitehurst and Lonigan, 1998, p.859) |
2 | 子どもの発言をほめたり共感する | Evaluate and Reflect | Whitehurst博士の寄稿サイト) | “That’s right.” (
3 | 子どもの発言に情報を加え、質問を重ね、話題を広げる | Expand | Whitehurst博士の寄稿サイト)「赤」の情報を付け加える | “It’s a red fire truck!” (
4 | 語彙を繰り返す。要約する | Repeat | YouTube配信(1分41秒)”A grocery bag! Everyone, say. Grocery bag!” |
ホワイトハースト博士のグループは、子どもと本を初めて読む時はダイアロジック・リーディングはせず、2回目以降に毎ページ上記の4つのステップを試しましょうと勧めています。
ただ絵本を読みながらこの4つのステップをどのページでも繰り返していくというのは、親子ともに途中でギブアップしそうです。絵本読みが嫌いになってしまう可能性もあるかもしれません。どんぐりばぁばは無理はせず、何回か読む時に少しずつ声掛けをしていこうと思っています。
子どもに発話をうながす最初のステップで使う5つの質問
4つのステップの手順は分かりましたが、一番難しいのは最初のステップで投げかける質問ですね。
Step 2以降は子どもの発話に対して声掛けを考えればいいので、子どもの言葉に対応する感じでなんとかなりそうです。でも、最初の質問はあらかじめ考えておいて、「このページではこれを聞こう」など仕込んでおかないと、どんぐりばぁばには無理そうです。
ホワイトハースト博士のグループは最初のステップの「子どもが発言するように背中を押す」時に使える5つの質問を以下のとおり提案されています。
質問 | 日本語訳 | 英語版 | 例 |
1 (3歳以下もOK) | Whで始まる質問(what, where, when, why, how) | Wh- prompts | 絵の動物をさしながら”What’s the name of this?”(お名前何?) |
2(3歳以下もOK) | 自由に話せるような質問 | Open-ended prompts | 絵本を使って “Tell me what’s happening in this picture.”(この絵で何が起こっているか教えてね) |
3 (3歳以下もOK) | キーワードを答えさせる空欄を作って質問 | Completion prompts | 文章の最後を空欄にして子どもに言ってもらう。空欄内には本の中に出てきて重要なキーワードになる「韻やフレーズ」が入る想定。 |
4(4歳もしくは5歳以上) | 本の内容を説明してもらう質問 | Recall prompts | 本の終わりもしくは2回目以降に使用。本の筋や出来事の順番理解がチェックできる。”Can you tell me what happened to [モノや人] in this story?” |
5 (4歳もしくは5歳以上) | 本を実体験と結びつける質問 | Distancing prompts | 農場の本を読みながら”Remember when we went to the animal park last week. Which of these animals did we see there?”(動物園に行ったでしょ、どんな動物がいたっけ?)この問いかけが本と現実との橋渡しになり子どもの語彙力・表現力がアップ |
5つの質問のうち、下のピンク色の2つは4歳もしくは5歳のネイティブ・スピーカーが対象なのでかなり難易度が高い内容です。
また、3番目の質問で「韻を踏んでいる箇所」を見つけるのは簡単そうですし、フォニックス前に導入すべきフォノロジカル・アウェアネスの準備になりますね。本の中で繰り返されるフレーズは非ネイティブの私たちにも分かりやすいです。
まとめ
海外で流行っている「ダイアロジック・リーディング」の4つのステップと、最初に使う質問5種類をホワイトハースト博士のグループの発信から学びました。
どんぐりばぁばが米国で子どもに絵本を読んでいた時期は、ホワイトハースト博士の論文発表の前だったので、単に絵本を読んできまぐれに「質問でもしてみるか」程度ののんびり子育てでした。
今回、子どもに読み聞かせをしながら発話を促す「ダイアロジック・リーディング」が体系的に組み立てられていて、どんな質問が適切かまで決まっていること知って、子どもへの読み聞かせもボンヤリしちゃダメなのかと身が引き締まりました。
子どもの言語能力が上がると聞くと孫への読み聞かせでもダイアロジック・リーディングを取り入れてみなくてはと気が焦りますね。でも質問攻めにしないようご注意を!
お孫ちゃんの様子を見ながら、ホワイトハースト博士おすすめの質問と手順をたまにやってみようと思っています。