2023年2月13日に2Sides NewsPicks Studiosで配信された内田伸子先生と佐藤ママの対談『早期教育の有害性を問う』を見ました。
赤ちゃんが毎日1時間DVDを見たら言語発達が遅れてしまったという論文を内田伸子先生が紹介されていてびっくりしました
もっとお二人のお話をじっくり伺いたかったですね。今回は番組内で内田先生が言及された論文や関連文献を見てみましょう
赤ちゃん向け教育DVDを月齢の低い赤ちゃんが習慣的に視聴:言語発達に悪影響
Zimmerman, F. J., Christakis, D. A., & Meltzoff, A. N. (2007). Associations between media viewing and language development in children under age 2 years. The Journal of Pediatrics, 151(4), 364–368. https://doi.org/10.1016/j.jpeds.2007.04.071
番組内で内田先生がご紹介されたのは、Zimmerman先生グループが2007年に出版されたベビー用教育DVDの早期視聴と言語発達不良との関連性を論じられた論文です。
実験に参加した赤ちゃんは月齢「8か月~16か月」と「17か月~24か月」の2グループに分けられて、赤ちゃんが「1日に教育DVDやテレビを視聴する時間」と赤ちゃんに対して保護者が「読み聞かせ (Reading)を少なくとも毎日1回はするか」「お話を(Telling stories)少なくとも毎日1回はするか」「音楽(Listening to music)週に数回聴くか」がチェックされました。
結果は保護者の方が赤ちゃんといっしょにDVDやテレビを視聴しているかには関係なく、月齢の低い「8か月~16か月」赤ちゃんだけが「赤ちゃん向け教育DVDの視聴量の多さ」が言語発達測定スコアを下げ、「読み聞かせ」「お話をする」回数の多さがスコアを上昇させました。
一方、月齢の高い赤ちゃん(月齢17か月~24か月)の場合は「読み聞かせ」だけがスコアを有意に上昇させました。
また、2つのグループの赤ちゃんともに「音楽を聴くか」の有無はスコアとは無関係でした (Zimmerman, Christakis and Meltzoff, 2007, p.366)。
実験の対象となったDVDやTV番組
実験対象となったDVDやTV番組は以下の6つですが、結果を示す表には4つのカテゴリー「子ども向け教育番組」「子供向けショー」「赤ちゃん向け教育DVD」「大人向け番組」にまとめて有意差の有無が示されています。赤ちゃんの言語発達測定スコアに悪影響があったのは、前述のように「赤ちゃん向け教育DVDの視聴」だけです。
- 子ども向け教育TV番組 (例:セサミ・ストリート、Arthur ツチブタのアーサー)
- 子ども向け教育DVD (例:セサミ・ストリート)
- 子ども向けTV番組 (例:Cartoon Networkの番組、スポンジ・ボブなど)
- 子ども向けの映画(例:リトル・マーメード、トイ・ストーリー)
- 赤ちゃん向けの教育DVD (例:Baby EinstainとBrainy Baby)
- 大人向けのTV番組(例:スポーツ番組、ザ・シンプトンズなど)
生後8か月~16か月の場合:1時間視聴するごとに単語獲得に遅れ
月齢の低いグループの赤ちゃんだけが「赤ちゃん向け教育DVD」の視聴時間と言語発達測定のスコアに関連があったのですが、具体的には「赤ちゃん向け教育DVDの継続的な視聴」1時間ごとに獲得スコアに16.99ポイント差がありました。言い換えれば、1時間赤ちゃん向け教育DVDを継続的に視聴すると、6語から8語の語彙の獲得に遅れを生じさせることが分かりました。ここが番組内で内田先生がとくに重視された点ですね。
なぜ具体的に6語から8語と分かるかですが、今回の実験では赤ちゃんの語彙をCDI(Communicative Development Inventory)という言語やコミュニケーションの発達指標として広く採用されているリストを用いて測定しました。その年齢の子どもたちが理解しているであろう身近な物や動物の名前など90語を赤ちゃんが知っているかを、保護者にチェックしてもらっています。90語のうち16.99ポイントにあたる語彙数は典型的な子どもでは6語から8語に相当するそうです(Zimmerman, Christakis and Meltzoff, 2007, p.363, p.367)。
ちなみにこの語彙のリストはいろいろなバージョンがあるようですが、中身は見られませんがこちらから購入はできそうでした。
赤ちゃん用教育DVDはリコール
Zimmerman先生グループはなぜこのように月齢の低い赤ちゃんだけにかんばしくない結果が出たかについていろいろ推測されています。
例えば、「赤ちゃん向け教育DVDは対話が少なく、画像もバラバラで質もよくなかったのに対して子ども用教育TV番組はもっと慎重に作成されているから」「赤ちゃん向け教育DVDの宣伝文句が『赤ちゃんの言語発達に効果的』だったので、その点を気にしている保護者がとくに視聴していたのではないか」など可能性をさまざま論じられています。
加えてZimmerman先生らは「赤ちゃん用教育DVD」の視聴が赤ちゃんの発達に与える影響を直接的に検証したものではなく」、測定指標も語彙チェックの言語スコアしか使用していないのは、実験の仕立てとして今後改善すべき点と述べています。
とは言え、実験の結果は一人歩きしてメディアにも取り上げられ、NewsPicks Studiosの番組内でお話が出たように商品はリコールされましたが、発売元がZimmerman先生グループを訴えたりすったもんだあったようです。
子どもの言語発達には大人が話しかけるのが大事
リコールされた赤ちゃん向け教育DVDの視聴が良くないことは分かったのですが、それではどうしたら子どもの言語発達に良い結果をもたらすことが出来るのでしょうか。
Christakis, D. A., Gilkerson, J., Richards, J. A., Zimmerman, F. J., Garrison, M. M., Xu, D., Gray, S., & Yapanel, U. (2009). Audible television and decreased adult words, infant vocalizations, and conversational turns. Archives of Pediatrics & Adolescent Medicine, 163(6), 554-558. https://doi.org/10.1001/archpediatrics.2009.61
Zimmerman, F. J., Gilkerson, J., Richards, J. A., Christakis, D. A., Xu, D., Gray, S., & Yapanel, U. (2009). Teaching by listening: The importance of adult-child conversations to language development. Pediatrics, 124(1), 342–349. https://doi.org/10.1542/peds.2008-2267
赤ちゃんのテレビ視聴に注意
Zimmerman先生も入られている上記2つの研究グループの2009年の論文によると、月齢2か月~48か月の赤ちゃんを対象にした実験では、家庭内でTVをつけていると「親の語彙数」「子どもの発声」「会話の回数」が減少してしまうそうです (Christakis et al., 2009, p.558)
「テレビは乳幼児の言語能力育成に効果がないメディアである」とまでおっしゃっています(Zimmerman et al., 2009, p.348)。
2007年の実験ではテレビ視聴についてはここまでは言い切っていらっしゃらなかった印象ですが、2009年になってだいぶバージョンアップされました。今回はテレビ業界から訴えられたのではとどんぐりばぁばはヒヤヒヤしながら検索しましたが、とりあえずそのような結果にはヒットしませんでした。
読み聞かせと会話が言語発達のポイント
Zimmerman先生らは、子どもは大人から話しかけられた語彙を1日平均およそ13,000語聞いていて、一日約400回の大人と子どもの会話にも参加していることも指摘されています(Zimmerman et al., 2009, p.348)
米国小児科学会が推奨するように、とくに2歳以下の子どもにはスクリーンは出来れば制限して、よりインタラクティブな遊びや読み聞かせ、話しかけ、会話をすることをZimmerman先生グループも勧めています。
とりわけ親自身が子どもに対して「ちょうどいい難易度で話すことが」子どもの言語発達を促すのにもっとも効果的だそうです(Zimmerman et al., 2009, p.348)。具体的に何がどう「ちょうどいい」のかについての詳細は論文内には見当たらなかったのですが、子どもの状況にあわせた難易度とは、「普段子どもの様子をちゃんと見ていますか?」と暗に保護者が聞かれているようでもあり、なんとまぁハードルが高い提案でしょうか。
会話しながら読み聞かせ(ダイアロジック・リーディング)がイチオシ
さらに、Zimmerman先生グループは「子どもへの読み聞かせの際に会話しながら読み聞かせする(ダイアロジック・リーディング)と、子どもが言語を使わないとならない状況になるので、言語発達に大変よい」と強調されています(p.348)。
なんとなく絵本や本を読むときに大人は「字面を追ってきちんと読もう」と思い込んでいますが、「ここに赤いお花が咲いているね。なんの花かしら?」「〇〇ちゃんだったらどうする?」のように積極的に子どもに質問してお話を読みながら親子で会話する機会を増やすことを良しとされています(p.348)。この読み聞かせの方法がどうやらイチオシのようです。
たんたんと読み聞かせるのではなく、会話したり質問したりして親子で双方向で交流することが子どもの言語発達には欠かせないという提案は、デジタル端末の本を読む時にも「共に読み、子どもに質問する」ことが勧められていたのと同じですね。
まとめ
すぐれたデジタル技術が普及してすばらしいDVDやTV番組や教育メディアが作られようとも、結局子どもの言語獲得に大切なのは、周囲の大人と「共に読み、質問し、会話すること」につきるようです。
しかもその会話は、子どものレベルに難易度をあわせてフレキシブルに対応しなければならないとは。もう本当に子育てというのはいつの時代も周囲の大人の観察力とスキルが試されますね。
どんぐりばぁばが「お孫ちゃんに読み聞かせをする時は、『〇〇ちゃんだったらどうする?』とか尋ねながら読んだ方がいいのですって」とどんぐりじぃじに説明したら、「そんなうざったいことをページごとに聞かれるくらいなら、読まなくていいって僕が赤ちゃんだったら思うよ」
いやはや「レベルに難易度にあわせてフレキシブル」に、お好みと適正を見極めつつアプローチするっていうのは、正解が見つけづらいのですねぇ。