語彙の「豊富さ」より「深さ」が読解力につながる

子どもと本と赤い風船

子どもの英単語について、気に掛けるポイントは何でしょうか?

くぬぎちゃん

英単語はさらっと教えてどんどん数を増やした方がいいのでしょうか?

どんぐりばぁば

英語が母語の方が未就学児に英単語を教える時に気にしている語彙の「深さ」をみてみましょう

目次

語彙の数よりも「深さ」が読解力につながる

Hadley, E. B., Dickinson, D. K., Hirsh-Pasek, K., Golinkoff, R. M., & Nesbitt, K. T. (2015). Examining the acquisition of vocabulary knowledge depth among preschool students. Reading Research Quarterly, 51(2), 181–198. https://doi.org/10.1002/rrq.130

Booth, A. E. (2009). Causal supports for early word learning. Child Development, 80(4), 1243–1250. https://doi.org/10.1111/j.1467-8624.2009.01328.x

今回とりあげる論文は2つです。一つ目は、Hadley先生グループが4歳から5歳の240名の未就学児の語彙知識の習得を、本の読み聞かせや本に関連した遊びを通して調査した内容です。

二つ目のBooth先生の文献は、Hadley先生の研究に引用されている論文で、36名の3歳児にこれまで目にしたことがないモノ(ポケモンと道具)を見せて、どう説明したら幼児の語彙知識が増加するのかを調べています。

2つの論文に共通するのは、幼児の語彙を獲得した数の多さ(論文では「豊富さ(breadth)」)ではなく「深さ(depth)」に着目していることです。語彙の「深さ」とはどういうことなのでしょう。

語彙の「深さ」とは

Hadley先生グループは、語彙の「豊富さ」は学習者の頭の中の辞書に登録されている項目の総数と定義しています。多くの単語を浅く理解してもなかなか絵本や本を読み進むことはできない、それよりも単語の「深さ」の理解が大事と主張しています(Hadley, Dickinson, Hirsh-Pasek, Golinkoff and Nesbitt, 2015, p.181)。

つまり、単語と絵を結び付けられるなど表面的にその単語を知っていても実世界では役に立たず、語彙のニュアンスまで理解する語彙の「深さ」を身につけなければ、いろいろな文章や文脈の中で使われた時にも対応できる「読解力」につながらないと説明しています(同,p.182)。

Hadley先生グループの実験もその元になっているBooth先生の取り組みも、いずれも子どもに単語を教える時にさまざまな伝え方をした結果、どのような語彙の「深さ」を獲得できるのかを調査しています。

ポケモンを使った論文:機能情報を教えると子どもの語彙知識が深まる

2009年のBooth先生の論文は、子どもが今まで目にしたことがないモノを使って、「物の機能情報を未就学児に提供する方がより単語知識を深める」と主張しています(Booth, 2009, p.1247)。具体的にはポケモン6体(サワムラー、キノガッサ、ランターン、フライゴン、カブトプス、コンパン)と6つの道具に便宜的に名前をつけて機能」を説明した場合とそれ以外の説明の時に子どもの語彙知識の理解に差があったことを示しています。

例えば、コンパン(右下)の場合は、「遠くの音を聞きとるためのアンテナを持つ」と機能に焦点を当てた方が「毛皮の中に隠すことが出来るアンテナを持つ」という特徴の説明よりも、子どもの語彙知識が増加したという結果でした。

このBooth先生の結果が、Hadley先生グループの論文、すなわち子どもにいろいろな方法で単語の情報を与えると、「機能」など7つの情報を特に子どもは理解して、語彙知識が深まるという調査に発展しました( Hadley, Dickinson, Hirsh-Pasek, Golinkoff and Nesbitt, 2015, p.184, p.193)。

子どもの語彙知識の理解を示す7つの項目

調査に使用した4冊の絵本

Hadley先生グループが使用したのは以下の4冊の絵本で、それぞれにターゲット単語を10個決めて調査しました。3人の子どもをグループにしてランダムに絵本を決めた上で、1日に1回、4日連続で読み聞かせをした後で10分間本の内容について遊びました。具体的にどのような遊びをしたかまでは詳細な記載はありませんでした。(どんぐりばぁばの想像にすぎませんが、海外の教育施設では本を劇に仕立てて遊んだりすることがあるので、そういった遊びかもしれません。)

4冊の絵本

読み聞かせの間、読み手は可能な限りターゲットの単語を定義したりジェスチャーで表現したりとさまざまな方法を使って語彙を説明しました。3回目と4回目の読み聞かせの時には積極的子どもに質問して単語の意味や理解を発言するように促しました。

子どもの語彙知識の「深さ」を示す7つの基準と例

Hadley先生グループが子どもの「語彙の深さ」を判断した基準は、以下の項目です。4歳から5歳の子どもに語彙の説明を求めた時に以下の7項目のどれかが言えれば「語彙知識の深さ」を理解と判断してポイントを与えています。

知覚的性質(Perceptual quality)見た目、匂い、味、感触、音などの情報
機能(Function)例:「眼鏡は王様がよく見えるようにする」(The spectacles help the king see better.)
部分と全体(Part/Whole)例:「うろこは魚の身体についている」(Scales are on a fish’s body.)
同義語(Synonym)類義語で説明
ジェスチャー(Gesture)例:眼鏡を掛けるマネ
意味のある文脈(Meaningful context):「庭の雑草を掘り起こすのにシャベルを使う」と説明した場合は、「掘り起こす」は「機能」にカウント、「庭の雑草」が「意味」にカテゴリー
基本的文脈(Basic context)例:煙突を「サンタクロースが使う」と説明した場合は「意味情報」がないので「基本的文脈」にカテゴリー
Hadley, Dickinson, Hirsh-Pasek, Golinkoff and Nesbitt (2015)の概要

子どもが実際に説明した語彙の「深さ」の例

Hadley先生グループが調査対象にした語彙の例の一部は下の表の2列目に掲載されています。動詞と形容詞と名詞で対象にした単語の数が片寄っている点は素人のどんぐりばぁばでも少し気になりました。実験に使った絵本に掲載された語彙、もしくは本に記載がなくとも物語に入れ込んで不自然でない単語という制約があったので、仕方がないのかもしれないです。

スクロールできます
語彙のタイプ実験に使用した単語例子どもが示した「深さ」の例
具象名詞basket(バスケット)機能を説明する(“You carry stuff with it.”「物を持ち運ぶ」)
chimney(煙突)部分と全体を説明する(“Made of Bricks.”「レンガでできている」)
nostrils(鼻の穴)ジェスチャーで伝える
shiled(盾)機能/意味のある文脈で説明する(“A shiled protects you when get in a fight with a dragon and he blows fire at you.”「ドラゴンとの戦いで、ドラゴンに火を吹かれたときに守ってくれるのが盾」)
throne (王座)知覚的性質を伝える(“A throne is golden.”「王座は金色」)
動詞chuckling (くすくす笑う)同義語で答える(quiet smilingを使う)
fetching (取ってくる)意味のある文脈で説明する(“I throw the ball to my dog, and he fetches it and gives it to me.”「飼っている犬にボールを投げると、ボールを取ってきて渡してくれる。」)
returning (元に戻る)同義語/意味のある文脈で説明する(run away and go backと説明した後で”In the story, the farmer ran away, and he never returned.”「お話の中で農夫は逃げて戻ってこなかった」)
sobbing (泣きじゃくる)同義語で答える (cryingを使う)
抽象名詞foolishness (愚かさ)同義語 で答える(acting crazyを使う)
形容詞intelligent (知能の高い)基本的文脈で説明(意味情報はない)(“Means that you could build a science fair project.”「サイエンス・フェアの作品を作れる意味」)
Hadley, Dickinson, Hirsh-Pasek, Golinkoff and Nesbitt, 2015, Appendix Bを元に作成

「形容詞」や「抽象名詞」はジェスチャーなどを使うことが難しいこともあって、結果は「具象名詞」「動詞」「抽象名詞」「形容詞」の順番に子どもは単語の「深さ」の習得を示したとHadley先生グループは報告しています(同,p.193)。

まとめ

単に表面的に語彙を理解していても「深さ」まで身に付いていないと読解にはつながらないことは、私たち大人が単語を覚える時にも単語カードだけで覚えても実際にはなかなか使いこなせないことで実証済ではありますね。

子どもはもちろん、大人も語彙知識の「深さ」を示す7つの項目のいずれかが理解できているか、単語を覚える時には気にかけられれば良いのかもしれません。とりわけ、適切な文脈で使えるかは重要なポイントで、ここはやはり辞書に頼って例文をチェックしていくことが必要ですね。

子どもと本と赤い風船

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