フォニックス導入前に絶対必要:フォノロジカル・アウェアネス

フォニックスがおうち英語で流行っていますが、素人がいきなり取り組むのはなかなかハードルが高そうです。

くぬぎちゃん

フォニックスはいきなり音素から教えていいのでしょうか?

どんぐりばぁば

英語が母語の方もフォニックスを学習する前に、まずは話し言葉の音の小さな単位に着目する「フォノロジカル・アウェアネス(フォニミック・アウェアネス)」で子どもの耳を鍛えています。フォニックスにスムーズに取り組むための準備をしてはいかがでしょう。

目次

「フォノロジカル・アウェアネス(フォニミック・アウェアネス)」とフォニックスの違い

今回ご紹介するフォノロジカル・アウェアネス(フォニミック・アウェアネス)」は、フォニックス導入前におすすめの「耳を鍛える」方法です。言い換えれば、「フォノロジカル・アウェアネス(フォニミック・アウェアネス)」を土台にしてフォニックスは積み上げられています。

未就学児の場合は、まずはフォニックスの前に「フォノロジカル・アウェアネス(フォニミック・アウェアネス)」を意識してみてはいかがでしょう。

フォニックスは、意味を区別する働きをする音声上のもっとも小さい単位である「音素(phoneme)」と、一つの音素を書き表す文字の集合である「書記素(grapheme)」の対応を学びつつ「読み」のスキルを獲得しながら、その目指す先は「書くこと(綴り)」です。

それに対して、「フォノロジカル・アウェアネス(フォニミック・アウェアネス)」は「耳を鍛え」て話し言葉の大事な要素に着目できるスキルを身に着けていく、いわばフォニックスの準備段階と言われています

てっとり早く「耳を鍛える」方法が知りたい方におすすめの本

「長ったらしい説明はいいから、すぐ使えるおすすめの方法を」という方は、ばぁばがtweetでもご紹介したリーパー・すみ子のご著書をぜひ。Kindleでも買えます。

アメリカで20年以上図書館司書として識字教育にたずさわった著者が、フォニックスの前段階である「音」への気づきをどう促すかについて丁寧に書かれています。赤ちゃんに手遊び歌で教える方法、もう少し大きなお子さま向けには絵本をつかった声掛けの仕方など具体的な手順を分かりやすく説明しています。

掲載された手遊び歌は絵も豊富で分かりやすいのですが、楽譜がついていないので曲になじみがないとどう歌えばいいのか困ってしまいますね。紹介されている手遊び歌、たとえばPat-a-cakeなど今はたくさんYouTubeに載っているのでお子さまと映像を探していっしょに遊んでくださいね。

この本は最初に「フォニミック・アウェアネス」が言語習得に欠かせないと解説があり、遊びを通しての学び方、絵本の使い方、音素の発音の確認、7つのステップ(著者は7つに分類しています)の実践方法が細やかに紹介されています。

音素の発音は本のイラストだけではわかりづらいので、定評のあるこちらのYouTubeでも確認するといいですね。

たくさんのアイディアが載っているので、毎日少しずつ取り組む時に便利そうです。

耳を鍛えるフォノロジカル・アウェアネス(フォニミック・アウェアネス)

フォノロジカル・アウェアネスの方がカバー範囲が若干広め

Ehri, L. C., Nunes, S. R., Willows, D. M., Schuster, B. V., Yaghoub-Zadeh, Z., & Shanahan, T. (2001). Phonemic awareness instruction helps children learn to read: Evidence from the National Reading Panel’s meta-analysis. Reading Research Quarterly, 36(3), 250–287. https://doi.org/10.1598/rrq.36.3.2

学術的な知見にご興味ある方には、アメリカでご活躍のEhri先生グループの論文はいかがでしょう。この研究は、「フォニミック・アウェアネス」について52の研究の96の事例を総合的に分析した論文ですが、「フォニミック・アウェアネス」を研究対象としている事例であれば「フォノロジカル・アウェアネス」を扱っているケースも取り上げています。

この「フォニミック・アウェアネス」と「フォノロジカル・アウェアネス」ですが、厳密には扱う内容は若干違います。Ehri先生グループによると、「フォノロジカル・アウェアネス (Phonological awareness)」と「フォニミック・アウェアネス(Phonemic awareness)」はカバー範囲が異なると定義しています。

「フォニミック・アウェアネス」は話し言葉の音素(phoneme)に注目してそれを操作できる能力とかなり狭い範囲を指しています。

一方、「フォノロジカル・アウェアネス」は「フォニミック・アウェアネス」の範囲だけでなく、のちに説明するシラブルやライミングのような、より大きな音声の単位をカバーする包括的な用語であるとしています(同,p.253)。

先ほど紹介したリーパー・すみ子のご著書の表紙には「フォニミック・アウェアネス」とありますが、本の内容は範囲の広い「フォノロジカル・アウェアネス」を扱っていることからも分かるように、教育現場では、「フォニミック・アウェアネス」と「フォノロジカル・アウェアネス」を厳密な区別なく使われる慣例もあるようです。

そこで、このブログでは便宜的に「フォノロジカル・アウェアネス(フォニミック・アウェアネス)」と記しています。

オーストラリア・ビクトリア州教育省のウエブサイトの図が「フォニミック・アウェアネス」と「フォノロジカル・アウェアネス」の違いを分かりやすく説明していたので、引用します。

英語母語話者の場合:未就学児対象で少人数グループで週に5時間~18時間がおすすめ

Ehri先生グループの論文によると、英語母語話者の場合は未就学児にとりわけ「フォノロジカル・アウェアネス(フォニミック・アウェアネス)」は効果的でした(同,p.266)。

もちろん非英語母語話者の子どもにも効果は有意にあるのですが、統計的な数値はネイティブのお子さま方よりも下がってしまいました。

また「フォノロジカル・アウェアネス(フォニミック・アウェアネス)」のクラスの大きさに関しては、家庭教師のような一対一よりも、少人数グループが効果的なことが分かりました(同,p.269)。

少人数グループの方が、子どもの注意力が強化されて、社会的な達成感も得られ、他の子どもの様子を見ることで観察学習の機会も得られるとのことでした。

演習時間に関しては、長時間の学習よりも週に5時間から18時間が効果が出やすいことも分かりました(同, p.269)。週末をのぞけば一日1時間から3.6時間も「フォノロジカル・アウェアネス(フォニミック・アウェアネス)」に取り組まなければならないとは!絵本を読んだりする活動が含まれているとはいえ、なかなかの長さですね。

フォノロジカル・アウェアネス(フォニミック・アウェアネス)の8つのステップ

メタ分析のEhri先生グループの論文が指摘するように、研究者によって「フォノロジカル・アウェアネス(フォニミック・アウェアネス)」で扱うステップや内容はさまざまで「これが絶対に正解」「この順番で学ぶのがベスト」という定説を紹介することは難しそうです。

そこで今回は、先のEhri先生グループの論文とリーパー・すみ子の『アメリカの小学校ではこうやって英語を教えている』(p.13,14, p.119以降)、またオーストラリア・ビクトリア州の教育省のウエブサイト重複して挙げているポイントを以下にまとめました。

Ehri先生グループの分析結果によると、取り組みの順序や内容も研究者グループによってさまざまでした。論文によると、表の6と7と8は上級者向けで、この活動が難なく出来るようになればリーディングにもスペリングにも有益であることが明らかになっています(同, p.268)。耳を鍛える「フォノロジカル・アウェアネス(フォニミック・アウェアネス)」の能力が育まれば「読み書き」にもつながるのですね。

リーパーの著書では、シラブルとオンセット・ライムはライミングとアリタレーションの後のステップになっているので、厳密には以下の表のステップとは順序が違います。また、リーパーはシラブルとオンセット・ライムをひとくくりのステップにして、全体を「7つのステップ」として紹介している点も表とは異なっています。

下の表の1から順番に単語(音と絵だけ。文字はまだ導入しない)を中心にしっかり取り組んだ方が分かりやすいでしょう。

音節 (シラブル/syllables)を認識しよう

まずは、下の表の1番目にある音節(シラブル/syllables)が分からないと、将来的に読みと綴りのフォニックスにうまくバトンを渡せないので、単語の音節を意識させる練習をしましょう。音節とはことばを発音する時に、一番小さな単位となるひとつながりの音のことで、多くは母音を中心にまとまっています。

音節(シラブル)を知るには、単語を発音する時に顎の下に手をおいて、顎が下がる回数が音節」とする説もありますが、これは残念ながら絶対ではないのです。象 (elephant)やスタジオ (studio)のように3音節 (el-e-phant/stu-di-o) でも、自分で言ってみると分かりますが、2回しか顎が下がらない単語もあります。

顎の上下で判断するのは難しいので、最初は音節の確認は辞書の「見出し語」にドットやハイフンなどで表示されているのを参考にチェックしておきましょう。

音節を子どもに体感させるには、windowは2つの音節で、treeは1つの音節であることを、拍手などで理解させます。

この音節が何個あるかが分からないと、将来的にフォニックスのセグメンティング (segmenting) で「この単語は何個の音節があるから、この個所にこのスペリングを当てはめよう」という作業が難しくなってしまいます。

とくに、日本のお子さまはカタカナ読みをしてしがちなので、英語の音節が混乱しがちです。たとえば、本当はchocolate (choc-o-late)で3回拍手するところを、チ・ヨ・コ・レ・イ・トと6回拍手してしまいます。何度も確認して日本語とは音節が違うことを体感させましょう。

韻を探してみよう (ライミング /rhymingとアリタレーション/allitaration)

音節が分かれば、2番目は韻(ライム)探し、3番目は頭韻(アリタレーション)探しに移ります。それぞれ、単語の末尾の音、単語の頭の音に注目できるようになったら、英語のしりとりも出来るわけです。例えば、cat→tree→pin→net→topとしりとりで単語を続けられますが、頭韻は子どもには難しいので、treeが分かってから母音が続くtopやtapを入れるようにしましょう。

単語が音素 (フォニウム/phoneme)から成り立つことに注目しよう

音節(シラブル)と韻(ライム)、頭韻(アリタレーション)まで理解して英語しりとりが出来るようになったら、もっと細かく音素 (フォニウム/phoneme)に注目させましょう。

オンセット・ライム (onset-rime)とは、単語をはじめの母音の前で分けて、母音の前の子音のグループをオンセット後ろの母音とそれに続く音のグループをライムと呼びます。これが意外と日本人には難しく、常に母音もセットで一音ととらえがちなので、混乱しないよう気を配りましょう。

例えば、singならiの前のsがオンセットで、ingがライム/ frogならfrがオンセットでogがライムになります。ここで、オンセットとライムを分けて別の物と組み合わせて「おかしな単語づくり」ゲームをしても良さそうです。具体的には、frogとcatを組み合わせて、fratとcogなどとカエルと猫の絵を半分ずつにしてドッキングさせると子どもに印象づけられるでしょう。

オンセット・ライムができたら、今度は、単語の始めの音、真ん中の音、終わりの音に注目させます。単語の最初と最後の音素(phoneme)は比較的分かりやすいのですが、中央の音素は聞き取りづらく発音しづらいので、最初と最後ができたらチャレンジさせましょう。例えば、shipであれば、始めの音がshで真ん中の音がi、終わりの音がpになります。これが上手にできるようになったら、フォニックスの準備がほぼできたイメージです。

フォノロジカル・アウェアネスでは、「音」だけで、文字は要りません。5までが順調に進んでから、上級者向けの6以降をチャレンジできればフォニックスにも効果があがりそうです。下の表の6以降はフォニックスでも音素や文字の導入とともに本格的にカバーするので、そのちょっとした練習のイメージです。

スクロールできます
各ステップの内容具体的な方法
1)音節 シラブル syllables(単語を発音する時、小さな単位となる一つながりの音の事で、多くは母音を中心にまとまっている)(例)2回手拍子しつつwin/dowと言って2つのシラブルから成ることを一緒に確認(単語にいくつシラブルがあるか自信がない時は辞書を引くと、検索した時に「見出し語」として表示される単語のシラブルの間に点がついているので一目瞭然)treeなどはシラブルが一つの単語は分けられないので、手拍子は1回になる。
2) ライミング rhyming(韻は「ライム (rhyme)」といい、2つ以上の単語や絵本の行の最後にある、「強勢のある母音」とそれに続く「子音が同じ」で、さらにその「強勢母音の前の子音が違っている」物を探すことをライミングという
単語の終わりの韻が他の単語でも同じ音で終わっている単語を探すことで、最後の音を聴きとれるようにして、「音素(phoneme)」が同じことに注目できるようになる (例)bedとfed / lunchとmunchとcrunch
3) アリタレーション 頭韻とはアリタレーションalliteration(同じ子音で始まる語の初めの音に注目)のことそれぞれの単語が同じ音素 (phoneme)から始まっていることを認識させる(例)Peter Piper picked a peck of pickled peppers. Round the rocks runs the river.
4) オンセット・ライムonset-rime(単語を母音の前と後で分ける)単語が「音素(phoneme)」から成り立っていることに注目できる(例)singならiの前のsがオンセットで、ingがライム/ frogならfrがオンセットでogがライム
5) イニシャル&ファイナルサウンド・セグメンテーション initial & final sound segmentation(初めと最後の音に注目)→サウンドポジション sound position(単語のどの位置の音素も確認)単語の最初と最後の「音素(phoneme)」(例:batとcat/sit とsun)は比較的分かりやすい。中央の「音素(phoneme)」は聞き取りづらく発音しづらいので、最初と最後ができたらチャレンジ。
6) ブレンディング Blending(音をつなげて言葉を作る)「音素(phoneme)」が子音s/子音l/母音e/子音p/子音tからなる「書記素(grapheme)」はslept (ブレンディングは「読み」の準備
7) セグメンティングSegmenting(単語の音素を数える)sleptには5つの「音素(phoneme)」があって、4つの子音と1つの母音がある(セグメンティングは「綴り」の準備
8) 音の削除と操作 Deleting & manipulation (デリーティングとマニュピュレーション)(例)flagのfをとるとlag/ farmの真ん中を変えてform/ inにいろいろな音素を足してpin, tin
Ehri et al. (2001)/リーパー(2008)/ビクトリア州教育省ウエブサイトから引用した情報を再編

上記の8つのステップをざっくり理解はできても、おうち英語でこの8つのステップに取り組むのはなかなか大変そうです。

オーストラリア・ビクトリア州教育省が提供しているサイトに3つの動画があるので、まずはイメージをつかんでからおうち英語に「フォノロジカル・アウェアネス(フォニミック・アウェアネス)」を導入できるといいですね。

まとめ

フォニックスをおうち英語に導入する前に「フォノロジカル・アウェアネス(フォニミック・アウェアネス)」を意識すると良いことがわかりました。

手順は研究者によってさまざま提唱されていますが、ライミング(韻)など絵本をいっしょに読みながら無理なく出来そうなことから取り組んでみるのが良さそうです。

ライミング(韻)が楽しい絵本はたくさん出版されていて、どんぐりばぁばがイギリスの本屋さんの赤ちゃんコーナーで絵本を見ていた時、ライミング(韻)を踏む絵本が想像よりはるかにたくさん棚に並んでいることに驚きました。

例えば、こちらのPECK PECK PECK (Lucy Cousins,2013)はどの本屋さんにもあった人気の絵本ですが、きつつきの親子のやりとり、子どものきつつきのチャレンジなど、どのページも楽しいリズムのライミング(韻)であふれていて、赤ちゃんが好む「穴あき」仕掛けもあいまって図書館でもいつも貸し出し中でした。

「どれが韻かよく分からない」と不安に思う時は、有名な本であればChatGPTにたずねてみるのも良さそうです。

PECK PECK PECKは大人気の絵本なので、”Show the examples of rhyming in Lucy Cousins’s Peck Peck Peck. Let’s think step by step.”と聞いてみました。

絵本はライミングであふれているので全部を示してくれているわけではありませんが、「そもそもライミングとはどういうものか」の説明から始まって、3つの例を示してくれました。

続けて”Show me more examples.”と打つとさらに4つの例も加えてくれました。

ChatGPTをおうち英語のアシスタントとして活用するのも便利ですね。

「フォノロジカル・アウェアネス(フォニミック・アウェアネス)」の8つのステップに真面目に取り組むと親子ともにうんざりしてしまいそうです。

絵本に出てきた単語ベースで、たまに8つのステップを思い出しながら楽しく読み聞かせしつつフォニックスの準備が出来れば良いかもしれないですね。

おまけ:英国教育省認定教材フォニックスの考えるフォノロジカル・アウェアネス

英国教育省認定教材フォニックスのフォノロジカル・アウェアネスは、上で紹介したような「フォニックスの基礎練習」の前の段階のもっと基礎的な「音への気づき」も扱っています。

例えば、英国教育省認定教材フォニックスのTwinkl Phonicsのフォノロジカル・アウェアネスでは、音をたくさん聞いて「やかんのシューシューなる音かな?」「コップや食器がガチャガチャする音かな?」と音の違いを認識するアクティビティからはじまっています。

また、Twinkl Phonics同様に英国教育省認定教材フォニックスであるOxford University PressのFloppy’s Phonicsの教員研修で具体的に示されているように、「緊急車両の音マネをしてみよう」「落ち葉を踏みに行ってみよう」という「音の違いの認識」を意識される活動や、「お部屋にある物の中から同じ音で終わるモノを集めてきてね」とfoxやsocksやboxなどの実物を触りながら音素を意識させるなど、音への気づきに積極的に取り組んでいま

もちろん、英国教育省認定教材フォニックスでも、オンセット・ライム (Onset Rime List Card)アリタレーション (alliteration worksheet)などはTwinklの有料素材になりますが、たくさん準備されてはいます。

同じフォノロジカル・アウェアネスでも英米では「音への気づき」に関しては、イギリスの方が音そのものの違いを聞き取ることに時間をかけるなど、少しスタンスが違うような印象です。

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